手裏剣術概論


《手裏剣術の発生》

手裏剣術の発生はいつの頃からかは判然としない。

短刀打ちからの発生、釘打ちからの発生、
打根術からの発生、内矢からの発生、中国武術のビャオからの発生
など色々と考えられる。

おそらくは必要に応じて、自然発生的に武芸者が考案し
創意と工夫を重ね秘密裏の内に修練したものだろう。
その術技が整理され形となり流派となって
その中のいくつかが後世に伝承され
今に残っています。



《手裏剣術の用法》

手裏剣の用法を考えれば、
武芸者が敵対した場合の防御、および攻撃の補助的手段が
第一に考えられる。

二つ目には、高貴な方が護身の手段として
手裏剣を習得する場合。
(徳川慶喜は手裏剣術の名手と言われている)

三つ目には、回国修行の武芸者などが
食料を得るために小動物を狩るための手段として
手裏剣を使用する場合。

四つ目には、大道芸などの見世物として
生活のために手裏剣を修練した場合
等が考えられる



《手裏剣の形状》

手裏剣にはその形状によって棒状手裏剣車手裏剣の二つに大別される。

車手裏剣


(ステンレス地の車手裏剣レプリカ・中国製)

皆さんがテレビや映画などで、
よく目にする忍びの者が使用している
四方尖り型や八方尖り型の手裏剣、
あれが車手裏剣と言われるものです。

刃の数が多いので携帯するのが大変です。
打ちにくく(手裏剣は投げるではなく、打つと表現します))
打剣軌道がやや不安定になるきらいがあります。

また、打剣しながら逃走するのでは、
隠密行動が発覚しているわけですから
完全に業務遂行が失敗していると考えるのが
妥当ではないでしょうか。
(おそらく次からは、仕事の依頼が来ないかも知れません)
後方かく乱が任務ならこの限りではありません。

私見ですが、忍びが使う車手裏剣は
打剣に使用するのが主目的ではなく、
石垣などを登攀する時、足場代わりに使うなり、
忍び込む時に雨戸に差込んで使うなり、
ナイフ代わりに使うなり、
スコップのように穴掘りの補助用具に使うなり、
最悪の場合は自決用にも使用したのではないかと思われます。


棒状手裏剣


(左から、稽古用六角手裏剣、香取神道流、手裏剣普及協会の手裏剣、根岸流)


打剣バランスを確認するための特殊な複合手裏剣
鋼鉄製の剣部分とアルミ製の柄の部分、
バランス調節用の各種尾栓ボルト、
重量追加用の尾栓ボルトに付けるアダプターからなる
複合型合体手裏剣

武術の世界で一般的に言う手裏剣とは、
棒状手裏剣のこをさします。

時代劇のテレビや映画などで
刀の鞘の差し裏に携帯している小柄を
相手に向かって投げつけるシーンを
目にされたことがありませんか。

そんなシーンの後の画面は、悪役俳優が利き腕に手裏剣の直撃を受け
戦闘不能になったり、着物の袖もろとも戸板に手裏剣で縫い打たれ
これまた戦闘不能になり事なきを得るなど、
お目出度いことになるようです。

以上のようなことは、絵空事の世界で
柄の部分が重たい小柄は、
目標に向かって如何ににうまく打ち込んでも
刃が後ろ向きになり、刺さることはまず無理としたものです。


今までに各人、各団体、各流派で色々と手裏剣の形状や重量、バランスなど、
より使いやすく、かつ命中精度を上げるべく
創意と工夫を凝らしてきました。

元々手裏剣術は左手使いのギッチョの世界で、
原則的には右手打ちは少ないようです。

と申しますのも、あくまで手裏剣術は剣術、居合術の補助的手段で、
それのみが独立して存在している武術ではありません。

すでに抜刀している場合は、
右手に刀を構えているわけですから
手空きの左手で手裏剣を打ちます。
しかしとっさの場合は、左手右手といわず
左右どちらでも手裏剣を打てるように修練したものでしょう。



《手裏剣の間合い》

手裏剣術の利点は、
敵対者の持つ得物の間合の外から対処できるところにあります。

敵対者との間合いですが相手が素手の場合は、一間
相手の得物が刀の場合は、二間
相手の得物が槍の場合は、三間

この距離が相手と自分が取るべき最低限の必要間合いです。

三間間合いの外から手裏剣を打ち
的中させることが出来る技術の習得が手裏剣術には必要とされます。



《手裏剣の打法》

手裏剣を打つ方法は、直打法と回転打法があります。

一般的には、回転を出来るだけさせない直打法の方が刺中精度が優れており
回転すればするほど刺中精度が悪くなります。
(手裏剣術では刺中と的中とは別で、的面に刺さる状態を的中、
的面には刺さらないがその周辺に刺さる状態を刺中と表現する)

これでお分かりかと思いますが、
手裏剣術の場合は他の狙的種目と異なり、
的から外れたからといって簡単に的周辺に突き刺さるものではありません。
(ダーツとは異なり羽がないので打剣のコントロールが難しい)

的中する以前に、的周辺に刺中することが修練の第一段階となります。

直打法

直打法は手裏剣の先を指先から出し、
上段構えから的に向かって打ち込む打法です。
手裏剣が指先から離れた瞬間から、
その剣が前方方向に90度(四分の一)弱回転する軌道で打ち込みます。

この時指先から離れた手裏剣は、
回転しようとして飛び出します。
そこで、手先から離れる一瞬前に指先で手裏剣の後部を叩き落すようにし、
必要以上に回転しようとする手裏剣の回転を90度以下にセーブします。

この微妙な手の内の体得こそが、手裏剣修行の永遠の課題となります。

また、打剣間合いが三間以上になっても直打法で打ちこなす
手の内の体得が上達の鍵となります。

回転打法

回転打法は手裏剣の後部を指先から出し、
上段構えから的に向かって打ち込む打法です。
手裏剣が指先から離れた瞬間から、
その剣が前方方向に270度(四分の三)弱回転する軌道で打ち込みます。

この打法は、手の内が決まらない初心者が使うと
一〜二間の短い間合いでは比較的よく刺中します。

直打法と回転打法を間合いにより使い分けるのは、
ある一定の間合い以上になると回転打法に切り替えねばならず
この微妙な兼ね合いが難しい。

そこで、四間間合いぐらいまでは
手の内の修練により直打法で統一するのが望ましい。



《打剣の体構え》

手裏剣術の打剣による体構えの基本は、
上段構えから的心(敵身)への打ち込みです。
このほかでは、脇構えから的心への打ち込み、
下段構えから的心への打ち込み等があります。

体の構えからは、一般的な立ち打ちをはじめ、
正座打ち、
危座打ち、
寝打ちなどの特殊な打ち方もあります。

また、一度に二本の手裏剣を同時に打ち込む二本打ち、
三本の手裏剣を同時に打ち込む三本打ちなどの打法もあります。
しかし、基本は上段からの一本打ちです。


《手裏剣の携帯本数と携帯場所》

手裏剣の携帯本数は、その形状や重量で差があります。
しかし、剣術や居合術の補助的武器であることを考えれば
三本携帯が程よいところではないでしょうか。

手裏剣の携帯場所は、流派によって色々あるようですが、
隠し武器でありその携帯を相手に悟られないことが大切です。

十三棋道舘道場で修練する手裏剣術の場合は、
その手裏剣を袴の背板の内側帯、内から一枚目に、
手裏剣頭部を左側上から深々と斜め差しにします。
後方からもその携帯を悟られないように配慮します。

そのようにすれば
左手を袴の背板に回し、三本の手裏剣を同時に抜き取ることが出来ますし
一本ずつ抜き取って使用することもできます。



《手裏剣術と刀術との併用法》

手裏剣術と刀術の併用法については、その時の状態により変わってきます。

室内では脇差のみを佩用しているので、
手裏剣術と脇差(小太刀)との併用業になります。
屋外では大刀と小刀を佩用しているので、
おもに手裏剣と大刀との併用業になります。

手裏剣の活用法は、手裏剣を打ち相手を牽制しながら抜刀する形と、
刀術の中で補助的に手裏剣を打つ形に大別される。
前者の場合の手裏剣打ちは、単打と連打を使い分けることができるが、
後者の場合の手裏剣打ちは単打使用のみです。
ともに、打ち手は原則として左打ちです。



《手裏剣術と脇差(小太刀)居合併用の基本業》

@前の敵

前敵が抜刀して間合いを詰めて来たのに対して、
手裏剣の単打ち、もしくは二本打ちで牽制制しながら大きく間合いを詰め
閃光抜刀(口伝)で逆袈裟に切り上げ
頭上で刀の切っ先を回し
追い討ちに踏み込み袈裟掛けに切り下げる
大きく一歩引きながら中段残心、脇血振り、脇納刀


A前後の敵

前後敵の抜刀気配に対して、
前敵に手裏剣の単打ち、もしくは二本打ちで牽制し、
重心を沈めながら左足を右足に小さく掛け足をして
すかさず後敵に対し振り向きざまに閃光抜刀(口伝)しながらが逆袈裟に切り上げる
そのままの体構えで前敵に向き直りながら、頭上で刀の切っ先を回し、
右足を踏み込み上段から袈裟掛けに斬りさげる。
中段残心、脇血振り、脇納刀


B四方の敵

四方敵の抜刀気配に対して、
三本の手裏剣を左手で抜き二本を右手に保持し、
その場に居つかず、前敵に大きく肉薄しながら右足を踏み込んで手裏剣を打ち込み
重心を沈めながら左足を右足に小さく掛け足をして
すかさず後敵に振り向き間合いを詰めて右足を踏み込んで手裏剣を打ち込む
最後の一本を左手に持ち、腰から90度右に向きを変え、
体を沈めたまま右足を踏み込んで左敵に手裏剣を打ち込む
すかさず脇差の柄に手を掛けながら、左足を右足に掛け足をし
右敵に対して180度右足を引きながら横一文字抜刀でなぎ払う
そのまま上段に構えながら、90度左を向き右足を踏み込み袈裟掛けに切る
重心を沈めたまま左足を右足に掛け足して後敵に振り返り
刀の刃を返して逆袈裟に切り上げ, 90度右に向きを変え上段残心、
中段に下ろし脇血振り、脇納刀