射流し(尋矢)競技と地的競技


自分の弓矢で思い切り飛ばしたら、どれくらい飛ぶものだろう
このようなことを考えたことはありませんか?


《射流し競技・広島県福山市》

我々一般の弓道修練者は、
あまり疑問を持つことなく十五間先の的にむかい
射法八節の行射要領にのっとり
無駄なく美しく力強く
正射必中を目指すものです。

その昔、弓矢が戦場で主要武器として扱われていたときは、
いかに早く当て続け貫き通し遠くに飛ばすか
ということを射法習得の眼目にしていたことでしょう。

「いかに早く」は、矢継ぎ早やという言葉が残っているように
要前(敵前)での射法の基本です。
「当て続け」は、戦場ですから当然のこと。
「貫き通し」は、甲冑武者が相手ですから鉄板をも射抜く貫通力。
「遠くに飛ばすか」は、敵の射程外から行射を可能とする
遠矢の射法であり、矢文の射法です。

この矢文の射法こそが、競技として現代に息づく射流し弓術の世界です

毎年10月、体育の日には、
広島県福山市芦田川河川敷特設射場
射流し競技遠的競技の大会が開催されます。

毎年11月3日、文化の日滋賀県は安土大中の湖干拓地で、
射流し競技地的競技100メートルスーパー遠的競技
各種競技大会が開催されます。



《射流し競技・滋賀県大中の湖》


大中での地的競技は、日本で唯一開催されているもので、
戦国の遺風を今に残しています。
その昔、攻城戦で攻撃軍が石垣の中にある構築物をめがけ
見えない下からほぼ真上に近く火矢を飛ばし
火災を引き起こすための射法の名残であると
聞いております。

《地的競技・滋賀県大中の湖》
射位から前方30メートルの地点に1メートル的を地面上仰向けに設置しています。
射手はその的を狙い、ほぼ垂直に近く矢を射放ちます。
矢は青空に向かい、点となって吸い込まれていき
30Kgの弓であれば300メートルほどの上空まで突き上がります。
そして、最高高度の手前から矢は徐々に斜めから真横になっていきます
矢が完全に真横になった地点が、まさに最高高度です。
そこからは徐々に矢が傾き、やがて点となり落下してきます。
このとき矢を見失うと射手全員が恐怖の坩堝に引きずり込まれるのです。
あ〜怖



この二つ大会は、飛ばシスト(射流し競技愛好者)にとって
待ちどおしい、待ちどおしい晴れ舞台なのです。


射流し専用弓具の紹介
の比較(左から、二寸伸び弓19Kg二寸詰め弓27Kg五寸詰め半弓30Kg
二寸伸びは私の常用弓ですが、
右二張りの弓は射流し競技専用に特注したものです
半弓は宮田弓師の特製品です。
の比較(左から、射流し竹矢ビーマン射流し矢遠的用竹矢近的用竹矢
左の尋矢は曽根正康矢師の特注品で弓力27Kg耐用の品
ビーマン矢はアーチェリー店で製作したものです。



各種の矢羽根 (左から、射流し用遠的用近的用征矢用狩俣平根矢用



射流し矢近的矢の拡大写真
空気抵抗を避けるため非常に小さい矢羽根がついています
この矢羽根が矢の方向性を保つための必要最小限度の大きさです



近的で使用しているボロの三ツかけです。


射流し遠的に使用している四ツかけです。
30kgほどの弓力になると四ツかけが楽なようです。



一立目の飛距離に気をよくし
持参の法螺貝で陣法螺を吹く筆者
競技の結果は逆転負け
《滋賀県大中の湖》



27Kgの二寸詰弓を四ツかけにて矢尺いっぱいに引き絞り、
三町超えを目指す射流し競技
《滋賀県大中の湖》

射流し(尋矢)の行射角度についての話
  尋矢の射方にはいろいろあるが通常
 両足を揃えて立ち、矢の射角をきめて

 は僅かに伏せ、体をそり気味に後ろに

 れるごとく、大きく切り放す心得が大切

 す。
矢の射角、すなわち角度は遠矢弓(附下
の詰まったもの)では、44度、的弓は42
、3度に射かける心得である。附下の短
 い弓は、矢をせり上げるといわれている
 が、現実には逆である。

 弓の附をさげて、矢を送り出す力を大
 きくプラスした。矢はその力を受けて、そ
 の射かけた角度に添って平行線と直線

 を保持して飛翔を行う。これが日本の弓
 の特徴であり、弓と矢の構造の和であり
 妙といえる。すなわち、附下の短い弓は
 矢の飛行の直線距離が長く続き、附下
 の長い弓は直線距離が短い。

 いずれの場合でも、矢は弓から送り出
 された直線距離を越えて、飛翔に変わ

 この時多少不安定な変化を生じやす
い。
 これが矢の構造上最も重要な点であ
る。
 弓の働き、矢の働きとの関係、いわゆる
 総体的な釣り合いの和を得て初めて矢
 は安定した、すなわち継ぎ目の無い飛

 に変わるのである。
 このような場合に限って、矢は真直ぐに空中をすべる(通常は伸びるという)ようにわずかに昇っていく。この上昇する量が遠矢弓では一度、的弓では二、
 三度と目測できる。これを加算して最
 角度四十五度に射るのである。

  附下の長い弓は、矢の飛行の直線距離が短い。さらに急角に上昇する働きを与えている。したがって急角に落ちることになって、矢を遠距離に送ることは出来ない。しかしこれは自己の射術、弓の働き、矢の働きの三者調和を得てのことである。射流しは矢が、大空に向かって吸い込まれるように飛んでゆく。
 実に爽快そのものである。

  古来射手は射貫物など、太矢、重矢を射て自己の弓勢をためし、遠矢など
 細矢、軽矢を射て矢ぶり、矢わざをためしたという。

  作者はこれらを見聞し、また自ら行うことによってはじめて弓の性能、矢の性能をしることになるであろう。両者とも欠くことのできない重要性を持っている。
矢師 曽根正康著 「弓矢の話」より抜粋 



《地的競技・滋賀県大中の湖》


晴れた日には
大空に向けて射た矢が
青空に消えて見えなくなる瞬間の
あの醍醐味を体験すると、
きっと今までとは異なる弓の新しい魅力を知ることになります。


さあ〜これから皆さんを
果てしなく無限の弓射の世界に
お誘いましょう。


《射流し競技・滋賀県大中の湖》